安西先生に習う 人を動かすコーチング力

安西先生のコーチング手腕 

 湘北高校バスケットボール部の個性派集団をまとめ上げた安西先生ですが、なぜあの問題児軍団をまとめ上げられたのでしょうか。
 それは卓越したコーチング手腕によりあの集団をまとめあげたのです。コーチングにおける基本姿勢は『見ること』です。見ることとは選手1人1人の長所、短所を正確に観察する力のことを言います。陵南高校との練習試合の時に赤木キャプテンに素人の桜木花道の出場をすすめます。確かに桜木のプレーはめちゃくちゃでしたが、並外れたスピードやジャンプ力に気づき、そして魅了されるようになります。
 すべてのコーチングは、先入観を取り除いた『正しい観察』からはじめなければならないことを安西先生は体現したのです。

人を動かす 安西先生の言葉

 安西先生は決して口数が多いわけではありません。多くを語らず選手に気づかせる適切な言葉を適切なタイミングで投げかけるんです。その言葉は全て本音です。正直な気持ちを投げかけているのです。嘘をついたり、この人にはこう言っとけば動くだろうと安易に考えた言葉でありません。
 ここぞという時に相手の心にズシンとくる言葉を話します。この一言が、選手たちの指針となり、心のよりどころになるのです。
 陵南高校との練習試合で、桜木花道がスタメンから外れていました。桜木がなぜ、俺がスタメンじゃないんだと安西先生に問い詰めますが、安西先生は『キミは秘密兵器だからスタメンじゃないんです。秘密兵器は温存しとかないと』と伝えます。この言葉は桜木をただなだめるだけの言葉ではありません。本心であったはず!たぶん…だからこそ説得力があったのです。
 そして、三井寿が中学時代にかけられた有名な言葉もありますよね。『あきらめたらそこで試合終了ですよ?』 これも三井寿が最後にあきらめかけた時に安西先生がかけた言葉です。相手がどんな心理状態なのか、その心理状態おいてどんな言葉をかけることが効果的なのか、これも観察力がある為にできることです。 その言葉を掛けられた三井寿はビザービートでシュートを決め、全国制覇、MVPも獲得しました。
 安西先生の言葉には愛と真実がこもっています。だから言葉の力が最大限に活かされ、信念が伝わり、奇跡をおこさせることにもなるのではないでしょうか。

人を動かすコーチング力

 コーチングはクライアントに気づいてもらい、自分で納得して行動していくことがゴールになります。安西先生は人を動かす言葉だけでなく、気づかせることも巧みにできます。
 海南戦のあとに、湘北バスケ部内で1年生vs2・3年生の練習試合をさせました。2・3年生チームはレギュラーの三井寿をハンデとして審判に就かせました。桜木花道はたた数カ月でバスケ部のベンチ部員をごぼう抜きするほどの成長を見せていたのですが、ここで安西先生は審判をしていた三井寿を2・3年生チームに投入。桜木をマークすことになりました。そして三井寿はゴール下では強い桜木をゴールから遠ざけるディフェンスをしました。そうなれば桜木は何もできず、無理矢理打つシュートはことごとく外れる始末…ここで課題となったのがゴール下のシュートでした。桜木自身もそれに気づき、自発的にゴール下の練習をするようになるのです。
 体験させて気づかせる。安西先生は言葉の他に、自分自身で納得できるように体験を通して気づかせているのです。
 

 命令型の指示であれば、最初人は言うことを聞き動きます。ですが、最初だけです。長期的にはその人からどんどん人がはなれていってしまいます。自分にとってもっと適した人生を探すようになってしまうのです。
 プーチン大統領を見たら分かりますよね?

安西先生の原体験 コーチング力を身に付けた理由

 安西先生は以前、白髪鬼と恐れられるほどスパルタコーチでした。大学のチームのコーチをしていた時、谷沢という選手を手塩にかけて育てていました。教えていることは至極真っ当なことだったんですが、谷沢はその厳しさに耐えかねてアメリカ挑戦を目指すことになりました。
 厳しくされるあまり、今の環境での自分を否定しまい、違う環境の方が自分には適しているという幻想を起こしてしまいます。
 アメリカに渡った谷沢は、期待していたほど活躍することができず、薬物に手に染めてしまい交通事故で亡くなってしまうという悲劇が起こったのです。それを新聞の記事で知った安西先生は大学チームのコーチを辞任し、湘北高校バスケ部でひっそりとコーチをしていたのです。白髪仏(ホワイトヘアーブッタ)と呼ばれるほど穏やかな性格で選手たちを見守る道を選びました。
 この過去の指導の過ちから選手の自主性、自発性を活かす指導を体得し、実践していたのでしょう。時には厳しい言葉も必要ですが、厳しい言葉ほど慎重に言葉を選んで使わなければいけません。頻度も考えなければいけません。
 

 安在先生が白髪鬼であろうと、白髪仏であろうと、どちらも一貫して言えるのが選手への愛です。その愛は伝え方によっては相手を追い詰めてしまうことになるのです。ですが、コーチングにおいてはその人への愛情が非常に大切になってきます。人を動かす言葉もしかり、コーチングも愛と正直さをもって対応していれば人はおのずと行動し、慕ってくれるのです。

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